過積載車両を撲滅し、
かけがえのない命を守る。
ベトナム過積載車両取り締り用
走行計量システム普及プロジェクト
急速な発展とともに物流量が増えるベトナム。多くの大型車両が最大積載量の数倍の過積載で走行し、大きな事故や道路の損傷が社会問題となっている。過積載をなくし、安全を守り、ベトナムの人々の命を守るために。JICAの支援を得てタナカが挑んだ。
過積載車両を撲滅し、
かけがえのない命を守る。
急速な発展とともに物流量が増えるベトナム。多くの大型車両が最大積載量の数倍の過積載で走行し、大きな事故や道路の損傷が社会問題となっている。過積載をなくし、安全を守り、ベトナムの人々の命を守るために。JICAの支援を得てタナカが挑んだ。
大型トラックが明らかに最大積載量を超過した荷物を載せ、轟音を立てて国道を走っていく。アスファルトの陥没も発生し、それが原因の死傷事故も発生していた。「過積載を取り締まるため、走行するトラックを計量するシステムを提案してほしい。できますか」。ベトナム交通運輸省・道路総局からの相談が、TANAKA SCALE VIETNAMの社長を務める長谷川と副社長のニャーのもとに届いたのは2012年の冬のことだった。「ベトナム現地法人を開設して1年が経った頃。営業活動を重ね、人脈構築を地道に行ってきたなかで、いただいたご相談でした。何としてもお応えして、ベトナムでもタナカの存在を知らしめたいと日本の本社に協力を要請しました」(長谷川)。本社も想いは同じだった。「きっとできる。ベトナム社会のためになれる機会、やってみよう」。すぐにハノイを訪れた本社社長の田中康之が、自ら日本の技術メンバーと連絡を取りながら、技術提案書を短期間で作成。道路総局でのプレゼンテーションも田中自ら行った。「ベトナムに現地法人を設立し、ベトナムの人々とともに仕事をするようになった今、私たちはベトナムの役に立ちたい。ぜひ任せていただきたい」と。想いが伝わり、欧州の大手メーカーを差し置いて、日本のタナカの提案が採択された。さらにJICAの中小企業支援事業にも採択され、開発費の支援が得られることに。こうしてタナカにとって初めての、海外政府機関とのODAプロジェクトがスタートした。
技術の責任者である部長の茶木、開発部長の若林(当時、開発課長)は実現に向け、日本とハノイを行き来する日々が始まった。「社内に過去のノウハウはあったものの、重量を導き出す計算式は今回のためにゼロから考える必要がありました」(若林)。まずはモデルでのシミュレーションを重ねた後、若林はタナカの現地法人TANAKA SCALE VIETNAMの工場の敷地に実寸の試作機を設置。トラックがはかりの上を走り抜けるときの一瞬の信号から、誤差を5%以内に抑え、正しく計量できるか。車を通過させてはひたすらデータを取る日々を過ごした。一方で茶木はプロジェクトの第1フェーズとしてハノイから港町ハイフォンに向かう国道5号線での設備の設置工事を進めようと交渉を進めながら、ビジネスの慣習の違いに苦しんでいた。「だいぶ前に道路設置の許可をもらっているのに工事が全く動き出さない。急かしても何も始まらず、理由もわからないまま待機し続けなければならなかったときは本当に苦しかった。ついに工事が動き出し、道路にカッターが入ったときの嬉しさは今でも覚えています」(茶木)。若林が悩み続けていた計算式の検討にも、ブレークスルーが起こった。「何日もの間、その計算式のことをずっと考えていたら、これならいけるというやり方をついに閃くことができました」(若林)。粘り強い「はかり屋」魂が実を結び、2015年9月、第1フェーズとしてついに国道5号線に実機の設置を実現。実際の道路でのデータ取りを開始すると、思っていた以上の精度の高さが得られ、チームは盛り上がった。
一通りの成果は出し、ベトナム運輸省の回答を首を長くして待ち続けていた2017年1月、ついに道路総局長からの連絡があった。「他社とも比較していたが、TANAKAの計量システムの精度が最もいい。今から3ヶ月で全ての試験をクリアしてほしい」。プロジェクトを加速してほしいという要望だった。「使用する全ての部品が規格をクリアしているか、ベトナムの研究機関に持ち込んで試験を受ける必要がありました」(若林)。試験官からの要求に応えるために、若林がハノイの電気店に走り、はんだごてを買ってきて、電子回路をその場で組み立てることもあった。そうやって部品が全ての試験をクリアすると、2017年春、国道5号線の現場での2度にわたる精度試験にメンバーは緊張感を持って臨んだ。猛暑の国道沿いで、PC画面を見つめる。結果は合格。TANAKAの高い精度を関係者に知らしめることとなった。
少しずつベトナム語を交えながらも、運輸省やベトナム人メンバーとのコミュニケーションにはやはり苦労してきたTANAKAのメンバー。そこに頼りになる仲間が現れた。TANAKA SCALE VIETNAMの社員、クワンだった。クワンは当初、チームに同行し通訳を務めているだけだったが、徐々にプロジェクトの意味を理解し、タナカの一員としての責任感を持って交渉をする成長を見せ始めたのだった。「ベトナムの事故を減らしたいという強い気持ちを、日本の社員から感じることができました。だから私も彼らの気持ちに応えたいと思いました」(クワン)。「クワン君とも日本人の熱い想いについていつも話していました。日本人は本気でベトナムの事を考えている、だから私達も応えよう、と」(副社長 ニャー)。いよいよギアがしっかりと噛み合ったかのように、プロジェクトが前へと進み出す。道路総局との意思疎通がスムーズになり、交渉の停滞がなくなった。チームには過積載車両のナンバーを撮影するカメラシステムなどを扱うベトナム企業も参加していたが、それらの企業との連携もうまくいくようになった。TANAKA側も、日本での勉強会を企画。道路総局の方々を日本に招待し、三条市の本社や工場はもちろん、国交省や長岡技術科学大学の道路技術研究者との意見交換、日本の道路の視察を行った。勉強会の後には懇親会も開き、お酒を酌み交わしながらの本音の交流も行った。「100年以上の私たちの歩みも知っていただき、TANAKAは信頼できると感じていただけたことは嬉しかったです」(田中)。2017年9月に行われた、国道5号線の逆方向の道路にシステムを設置する第2フェーズは極めてスムーズに進み、第1フェーズで度々起きていたプロジェクトの停滞は、ほとんどと言って良いほどなくなった。人と人との信頼の大事さを、TANAKAメンバーもあらためて認識することとなった。
2017年10月にはベトナム運輸省からの承認を獲得。そして12月には取り締まりを担当する警察官約40人に、この走行計量システムの使い方の指導を2日間に渡って実施した 。そして2018年1月には、ついに取り締り実証実験を実施。深夜から朝にかけての時間帯で、11台の車両を検挙することができ、大きな効果を確かめることができた。2018年5月に行った運輸省へのシステムの引き渡しセレモニーには、国営テレビなどメディアが多く集まり、テレビで放送もされたことで注目も集めた。「JICAの支援を受けた事業としてはこれがいったんのゴール。日本に帰国して、田中社長と一緒にJICAに報告書を届けたときは大きな達成感を感じました」(茶木)。「苦労はしましたが、面白い仕事でした。ベトナム語も後半はだいぶ話せるようになって、工事関係者とも仲良くなったり。貴重な経験が多くできました」(若林)。猛暑のベトナムの道路脇で、ヘルメットをかぶり、チームのメンバーと試行錯誤を重ねた日々が懐かしいと2人は語る。「本番はこれからだと思っています。ベトナム全土にシステムを入れて、実際に過積載車両を減らしていくことが目標。それを普及させる最初の段階まで来ただけ。まだまだこれからも楽しい苦労をしていきたいですね」(田中)。はかることで私たちは命を守り、ベトナムの未来に貢献できる。「はかり屋」たちの国境を超えたチャレンジは続く。