ものづくり×障がい者雇用のモデルケースをつくり、
より多くの人が、誇りを持って働ける世界に挑戦する。

私たち田中衡機工業所は2016年から、障がい者雇用に力を入れています。
取り組み開始から約4年、今では4名の仲間を迎え入れることができました。
ここでは、私たちが障がい者雇用に取り組みはじめた目的や経緯、これからの展望についてご紹介します。

障がい者の方々が生き生きと働ける。
そんな場所をつくり、地域に貢献したい。

田中衡機が創業時から100年以上本社を置く、新潟・燕三条。ものづくりの町として全国に名を知られるこの地ですが、障がい者の方が働ける場所は十分とはいえません。
長年この地に根づいてやってきた企業として、地域のために何かできることはないだろうか。かねてよりそう感じていた私たちは、障がい者雇用を通じて地域に貢献できないかと考えました。
一方、障がい者雇用には「持続性」に課題があることもわかっていました。単に慈善事業としてではなく、雇用する側とされる側、双方にメリットがなくては、活動を長続きさせられないばかりか、関わる人を不幸にしてしまう可能性もある。おたがいが幸せになれる、そんな関係を築けてこそ、持続的な取り組みにできるのではないか。

そのような考えのもと自社に目を向けた時、私たちはひとつの課題を抱えていました。それは、電気を使わない機械式のはかりづくりに関する課題です。
機械式はかりは、田中衡機が創業時から変わらずつくり続けている製品であり、特に「うわかん」と呼ばれる上皿さおはかりは、電気式はかりが普及した今でも多くのパン屋さんや和菓子屋さんにご愛用いただいています。
一方、1台1台緻密な仕事を必要とするこのはかりの製造には人の手が必要不可欠であり、工程に機械を導入できる電気式はかりと比べると、人件費の面で決して効率のいい事業ではありません。そういった背景もあり、現在この機械式はかりを製造しているのは、国内では私たち田中衡機のみになりました。
しかし、私たちは『「はかり屋」魂で、産業の基盤を守り続け、人と人とを信頼で紡ぎ、今よりも幸せな世界を育む。』という理念を掲げる「はかり屋」です。使っていただいているお客様の期待を裏切らないために、産業の基盤を守り続けるために、これからもつくり続けていく使命があります。

そこで私たちが考えたのが、障がい者の方々に「機械式はかり」の製造を担っていただくことで、産業の基盤を守り続けることができないか、それによって彼らが誇りを持って働ける環境をつくれないか、ということでした。そうすれば、慈善事業ではなく、理念を体現するひとつの取り組みとして、社会のため、地域のためになることができる。そう心に刻みながら、採用活動をスタートしました。

強みを活かせるマッチングが、
障がい者雇用の鍵になる。

とはいえ当時、私たちはまったくの素人。まずは障がい者雇用への理解を深めることからスタートしました。
第一歩として私たちが参加したのは、障がい者支援を行う学校が開催する事業者向けの雇用説明会でした。その説明会は、障がい者雇用に関する基本的な内容を学び、実際に障がい者の方とふれあうことで、理解を深めるプログラムになっていました。
その途中、ある教室を見学したときのことです。そこには、一生懸命に漢字を練習している子や、自分の世界に入って作業に没頭している子がいました。そのひたむきな姿に私たちは心を動かされたと同時に、ある気づきを得ました。それは、彼らは「なにかひとつのことに集中的に取り組むスペシャリストになれるのではないか?」ということであり、彼らの強みは、集中力と忍耐力が必要な「はかりづくり」にきっと活かすことができる、ということ。そして「人には大なり小なり得意なこと、苦手なことがあり、程度の差こそあれ、それは障がい者も健常者も同じ」だということでした。健常者にできて障がい者にできないことがあるように、障がい者にできて健常者にできないことだってある。お互いに強みを理解し、活かしあい、助けあうことで、みんなが力を発揮して誇りを持って働くことができるはずだ。障がい者雇用の、大きな可能性が見えた瞬間でした。

学びを深めていくうちに、採用活動における重要なポイントもわかってきました。それは、「強みを活かせるマッチング」を実現することです。
一般的な就職活動でも会社説明会・採用面接・試用期間があるように、障がい者雇用も入社にいたるまでにいくつかのステップを踏みます。
最初のステップは、会社を見学しに来ていただき、私たちの仕事を知ってもらうこと。もし興味を持ってもらえれば、次に行うのは10日からひと月ほどの実習です。この期間は、実際の仕事に携わってもらい、「得意なこと」「苦手なこと」を見せてもらいながら、働く本人としても「田中衡機で働く」ことを実感してもらいます。当然、「働いてみたら思っていたのとちがった」ということや「ここでは強みが活かせない」といった判断をすることもあります。そのような過程を経て、「やっぱり働きたい」と思っていただけ、かつ私たちも「ぜひ一緒に働いてほしい」となれば、次に半年のトライアル雇用を経て、ようやく正規雇用につながっていきます。
ここまで慎重にマッチングをすることで、障がい者の方には田中衡機のことを深く理解していただくと同時に、私たちもまた彼らへの理解を深め、一緒に働くイメージやキャリアの設計を行っていくのです。

そういったプロセスを経て、はじめて障がい者の方に入社していただいた2017年。入念な事前準備をしてきたとは言え、私たちにはひとつの不安がありました。それは、「現場の社員がどういう反応をするか」ということでした。