神林
「はかることをもっと当たり前に。そのデータ活用に人間の叡智を」
神林
養豚の今後において「はかる」ことは重要だと思っています。養豚とは、いかに豚を健やかに育んで成長させていくかです。豚の体重の変化をはかり、温度などの環境情報もはかっていくことで、その関係を分析すれば生産性の改善ポイントも見えてきます。「はかる」ことは生産性改善の1歩目というか、一丁目一番地だと思います。
大竹
現状認識ができないと何も改善できないですからね。まずは寸分の狂いもなく、今の現状を認識しましょうということが「はかる」ことだと思っています。データを取るということだと思うんですよね。体重だけでなく、餌の量、体温、咳の周波数などもはかることで、病気の早期発見や予防にもつなげられます。
田中
なるほど。
大竹
出荷直前、もう肉になるしかないタイミングで、結果を見るためだけにはかるのではなく、改善できる余地があるところではかることが大事でしょうね。そして24時間365日、豚を見守る「女神マリア」のようなAIシステムが実現して、データをリアルタイムでとりながら、病気の予兆などがあればなんらかのサインを送ってくれるような未来が一つの理想なのかなと思います。
田中
リアルタイムというのは一つのキーワードですね。実現すれば、今まで養豚をやってきたプロの方たちにも新しい発見があるかもしれませんね。神林さんはいかがですか。
神林
生産性と作業の効率を上げるために、はかること、データを取得することが当たり前になってほしいなと思います。ただ、データを取ることだけを目的にして時間をかけていてもダメで、データを活用していくことに力を使うべきだし、ここに人手をかけるべきだと思います。トヨタ自動車さんのトヨタ生産方式には「自働化」という考え方があって、「動」に人偏をつけて「働」としています。オートメーションにヒューマンインテリジェンスが加わってこそ生産性を上げることができるというもの。テクノロジーを使って、こういう生産がしたいんだという熱い想いの生産者の方がいて、その想いに応えて、私たちIT企業や田中衡機さんのようなメーカーが一緒に技術を高めていけたらいいと思います。
田中
「未来プロジェクト、始まっています」
田中
欧州の労働生産性を見ると、日本の2倍以上の国もあり、とても高いんです。サーモンの養殖やチューリップの栽培さえも自動化されているのを見たことがあり、日本のやり方を考える上でもとても参考になると私自身は感じています。日本もまだまだ生産性向上の余地は多くあります。オートソーティングシステム「デジトンDT」をつくっている弊社では、カメラを並べて設置することで、豚の体重データと2次元、3次元の映像を何万件と集めていて、ソフトウェアメーカーやAIメーカーと協力してカメラだけで豚の体重や大きさがわかるようなシステムを開発中なんです。
大竹
素晴らしい。まさに「未来プロジェクト」ですね。
田中
その通りです。まだ課題は多くありますが、農家さんに必要とするデータを提供できるようにしようとしているところです。
神林
体重データは必ず農家さんに必要とされるものだと思っています。しかし、「データがあります」というだけでなく、「このデータでこういったことができます」までをセットにして提供していくことで、生産者の方々のお役にも立てて、豚肉の安定供給に貢献できるのだと思います。
大竹
それはぜひ積み重ねていただきたいです。ある生産者Aさんがこんなデータを取って、こう使いましたというパイロットスタディを見せていけば説得力が増すのではないでしょうか。
小柳
そうですね。年間で100台以上、全国の農家さんにお納めしている弊社のオートソーティングシステムにも、次のモデルからはカメラを搭載して、上から豚の写真を撮れるものにしていく予定です。年間で何百頭ものデータ量をどんどん集めて、そこにEco-Porkさんのシステムが連携してくると、餌の供給量や捌いたときの等級などのデータも紐づけられます。最初はよくわからないデータの集まりだったものに、途中から方向性が見えてくるのではと思います。病気の豚の特定も、ゆくゆくはできるようになるのではないかと。
大竹
空調と連動するとかですね。
田中
その通りです。つまり、データって豚の声なんですよね。ストレスなく気持ちよく過ごせるからおいしい豚肉ができる。データから豚の声をいかに聞いてあげるか。つまり、はかることは、豚とのコミュニケーションを増やすことだとも言えます。大竹先生や農家さんからも、取れたデータが意味することを教えていただきながら、開発を進めていきたいと考えています。これからもよろしくお願いします。